指の圧迫の順番が問題の種類によって異なることはすでに述べたが、DFPで用いる圧迫の順番(解除パターン)はFAP診断によって導き出されたものである。
 その方法は、立位で、左右どちらかの手をはばたくようにぶらぶら振る。振る速さは1秒間に3〜5回程度で、いずれかの指に何か反応が出れば、クライエントが実際に症状を持っていると判断する。
 
 
 
 
指の反応とは、指が曲がる、指が突っ張る、指が痛いなどの治療者側の身体感覚である。クライエントが症状のことを考えていると指に反応が出るが、別のことを考えると指の反応が消えてしまうことが多い。そういった経験から、クライエントに症状が存在するとき、あるいは症状のことを考えたときには、クライエントの身体(主に脳内)で症状のない時とは異なった生化学的、生理学的、内分泌学的、免疫学的などさまざまな身体レベルでの生体活動が起こっていると推測され、その状態を精神生理固着と呼ぶことにした。FAPでは症状があることイコール精神生理固着がある、と考える。
 
 
 
症状に関連した固着が検出できたら、次に「エンコードの検出」とクライエントに発声してもらう。すると指が何かに取り憑かれたかのようにある順番で曲がったり伸びたりを繰り返すことを経験する。反応する指の順番は問題の種類によって異なってくる。問題の種類に対応する解除パターンを使ってDFPを行うわけである。
 
 
 
SUDがなかなか下がらない場合、治療抵抗の修正を行うことはすでに述べたが、治療者が手を振りながらクライエントに「抑圧、抵抗、防衛、解離」と言ってもらっていずれかを発声したときに中指が反応したら、そこが4つのうちの適切なポイントである。
 以上が現時点におけるFAP診断による治療の形態である。今後この方法がさらに発展したり、あるいはまったく新しい方法が見つかる可能性も十分あるが、われわれは手を振って指の反応を拾うことで診断し、指のポイントの圧迫と意識の左右移動を中心に治療していく方法をFAPと呼ぶことにした。
 
 
 
 
   
     
  ではこのFAP診断を用いて治療を行った例を紹介する。  
     
   
   
  男性は6年前に交通事故で入院し、それ以来、対人緊張がひどく、吃音で悩むようになり相談にみえた。面接では確かに何を話しているのか聞き取るのが困難な状態であった。そこで交通事故時の心的外傷の可能性を考えFAPを実施した。  
   
   
     
 

クライエントに「交通事故のトラウマ」と発声してもらい治療者が手を振ると、最初に検出されたのは複雑な心的外傷のパターンであった。薬指→中指→小指のDFPによって治療を行い、再度「交通事故のトラウマ」と発声してもらうと、悔しさの反応が出た。これは悔しさ、憎しみなどの「深い感情」とわれわれが呼んでいるもので、人差指に反応が出る。親指内側→人差指という解除パターンでDFPを行い、再度「交通事故のトラウマ」と発声してもらうと、今度は怒りの反応が出た。そこで小指の治療を行い、再度「交通事故のトラウマ」と発声してもらったところ、反応がなくなった。精神生理固着が完全に解除されたと考えられる。そこで効果の定着を行って終了とした。
 後日、クライエントは「楽に話せるようになった」と報告してきた。実際、クライエントの声はよく聞き取れるようになっていた。事故で入院したとき、医師に自分のつらい状況をいくら説明しても理解してもらえず、病院の中で悔しい思いをしているうちに吃音がひどくなったことを思い出したということだった。

■ このケースにおける問題別解除パターン一覧
1 複雑な心的外傷・パニック 薬指→中指→小指
2 憎しみ・恨みなどの深い感情 親指内→人差指
3 怒り 小指

 

 
 
 
   
     
  この事例で示したように、FAP診断を使って精神生理固着を同定しながら、問題に合ったパターンを使って治療していくと、ほとんどの例で問題の解消・軽減に導くことが可能である。
 この事例の治療過程からわかるように、「交通事故のトラウマ」について診断・治療を開始して、最初に出たのは心的外傷のパターンだったが、2度目には悔しさが、3度目には怒りのパターンが検出されている。そしてそれぞれがこのクライエントの経験と重なっていると言えよう。一言で心的外傷と言っても、複雑な感情や身体反応が絡んでおり、その治療過程はタマネギの皮を1枚ずつ剥いでいくかのごとくである。このような治療経験から、症状とはいくつかの固着が層構造を成して出来上がっているということを実感的に捉えられるようになったのである。また指の反応をクライエントにフィードバックすることで、クライエントは単に症状が取れて楽になるだけでなく、自分の経験が何であったのかを認知的にも捉え直すことができる。これもFAP診断の利点と言える。
 それにしても本当に指の反応など起こるのだろうか。治療者の思い込みではないのか・・・。これまで数十人に指導した範囲では、まったく指が反応しなかった人はいなかった。しかし非常によく反応する人から一部の指しか反応しない人までさまざまであり、個人差はあるといえる。その辺りは今後の検討課題である。
 このような現象が信じられない方には以下のような話をするにとどめておく。指の反応はクライエントからのある情報を受け取っていると考えることが出来る。この
「情報」という言葉は森鴎外の造語らしいが、それ以前日本人はこの情報に相当するものを「気」と呼んでいたらしい。気と考えれば、人から人へある種の気が伝わることは想像できる。たとえば後ろに人が立っているとき、「気配」を感じることがあるだろう。それは音ではないか、熱ではないか、空気の振動ではないか、などといろいろなことを考えることが出来るが、われわれがまだ検知する方法を発見していない情 報伝達方法が存在する可能性も否定してはならないだろうと考えている。
 
 
 
 
 
 
1)Callahan,R.:Tapping the healer within;using thought field therapy to
instantly conquer your fears, anxieties, and emotional distress.
Contemporary Books, Illinois, 2001(穂積由利子訳:TFT<思考場>療法入門:タッピングで不安、うつ、恐怖症を取り除く,春秋社,東京,2001)
2)大嶋信頼、米沢宏、松浦真澄、中村俊規、久藤文雄、吉本武史、斎藤学:FAP(Free from Anxiety Program);新しいトラウマ治療.アディクションと家族,18(4);529-536, 2001
3)Shapiro, F.:Eye Movement Desensitization and Reprocessing ; Basic
Principles, Protocol, and Procedures. Guilford Press, New York, 1995