トラウマのもう一つの考え方

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トラウマのもう一つの考え方

大嶋信頼ブログ 緊張しちゃう人たち

2016/06/08 トラウマのもう一つの考え方


トラウマちゃんの本にも書いたが、トラウマ治療の研究者でもある、ヴァンダー・コーク先生と虎の門の街を歩きながら話しているときが印象深かった。

 

「オランダの軍人で日本兵の捕虜になった祖父は日本人のことを恨んでいた」と先生は仰った。

 

「でも、時間とともに祖父の記憶は変わっていき、いつの間にか日本兵が戦友のように語られるようになった」と話してくださった。

 

この話がコーク先生との出会いで一番大切な話だったような気がした。

 

何度も何度も話をしているうちに話が美化されただけ、というのが意識的な人の解釈になる。

 

でも、もしかしたら、コーク先生のお祖父さんの中で何かが変わることで、脳のネットワークで捕虜になっていた当時の脳と繋がり、その当時の自分に思考的な影響を与えて、別の時間軸が出来上がり「日本人は友人」というアウトカムが得られたとしたら面白い。

 

「老いて記憶が書き換えられて美化される」というよりも「現在の自分が過去の自分に影響を与えて時間軸が別に作られていく」と仮説を立ててみるとものすごく興味深い。

 

ある子供が泣いている。
その子は勉強もできなくて、鼻水を垂らしていて、片づけもできなくて机の中はぐちゃぐちゃ。
母親からは「お父さんに似てダメな子!」と言われ、父親からは「こんな子供はうちの子じゃない!」と引っ叩かれる。
そして、泣きじゃくるとますます惨めな気持ちになり、消えてしまいたくなる。
あの頃の自分は「将来、大人になっても自分は惨めなままで、人から蔑まれて生きていくのか」と思っていた。

 

そんな子供の頃のことを思い出している自分は、やるべきこともちゃんとできないし、人の目を気にして怯えながら生活をしている。人に知られたら恥ずかしいことがたくさんあって、人には自分を正直にさらけ出すことができない。だから、すぐに人からは嫌われてのけ者にされていつの間にか自分だけ孤立してしまっている。

 

あの子供の頃に恐れていた状況がまさに現実になっている。
惨めで何も成し遂げていなくて、誰からも認めてもらえないし尊敬されない存在。
人から批判されて、否定されて踏みにじられて、そして捨てられてしまう。

 

こんなことを考えてみると、あの子供の頃の自分の思考は、明らかに現在の自分に影響している。
「もちろん、それは脳に蓄積された記憶だから」というのが一般的な解釈である。

 

でも、あの頃の自分は見事に今の惨めな自分の状況を予見していたし、それに絶望していた。
それって、現在の惨めな自分の脳と繋がっていたから、と解釈してみると面白い。
そうなると、あの頃の自分のメンタリティーに現在の自分の思考がつながってしまうから、自分の中の幼くて変わらない部分が存在する。

 

あの惨めな子供の頃がトラウマ化して、惨めさが断片化しているからフラッシュバック(突然、不快な感情が襲ってくる症状のこと)してくるからあの時と同じ気分になる、とトラウマの専門家だったら解釈する。

 

でも、光よりも速い速度の脳と脳のネットワークで過去の自分とつながっているからあの頃の惨めさがリアルであり、あの頃感じた絶望感がものすごくリアルだとすると面白い。

 

あの頃の自分と現在の自分がお互いに影響をしあっていて、過去の自分が変わらなければ今の自分も変わることができないし、今の自分が変わらなければ、過去の自分も変わることが無い、という興味深い世界がここにある(妄想か!)。

 

もし、過去の自分を変えられるとしたら、どうやったら過去の自分を変えることができるのか?

 

コーク先生のお祖父さんの話からすると、たぶん、自分を責めることを止めた時に過去の記憶が変わっていく、ということが考えられる。日本兵につかまってしまった自分を責めたり、捕まるような作戦を立てた上官を責め続けているときは「あの日本兵め!」と憎しみは変わらず、過去は憎しみで固着してしまう。

 

肉体が丈夫だと「もっと自分は優秀に戦えたかもしれない!」と後悔が先立ってしまい、その当時の自分を許すことができず、そして、記憶は固定されてしまう。でも、肉体が衰えていくにしたがって、当時の自分を「あの頃は凄かった!」と尊敬できるようになる。何らかのきっかけで、その当時の自分を許すことができた時に、自分を尊敬できるようになり、その当時の自分の脳とのつながりで、当時の状況が次第に変わっていく。

 

あの惨めで泣いている自分を思い出している自分は自分を責めている。
「なんでもっとしっかりしなかったんだ!」とか「なんでもっと、いじめっ子に抵抗しなかったんだ!」と後悔の念が消えない。
自分を責めることが止められないと、周りに対する憎しみや恨みは消えることなくリアルに残り続ける。その憎しみがアンカーとなり、その当時の自分の脳と脳のネットワークで繋がり続けて影響を受け続けて惨めさを垂れ流される。

 

自分がその当時の自分を責め続ければ、子供の自分の脳と繋がっているから、そのダメ出しは当時の自分に伝わってダメージを与えてしまう。
脳のネットワークで両親から責められている、と思っていたら、実際は未来の自分から責められてダメージを与えられていて動けなくなっていた、と考えたらものすごく興味深い(だから、子供の頃にあんなに疲れていたんだ~!)。

 

(つづく)

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